口は、歯だけのものではない。|OCAジャーナル通信 第1号
OCAジャーナル通信 第1号|ORAL × BODY
歯科医療者はもちろん、トレーナー、ボイストレーナー、整体師、セラピストなど、人の身体と機能に関わるすべての方へ。OCAジャーナルでは、口腔機能の専門知識を「専門外の人にも使える言葉」に翻訳してお届けします。第1号のテーマは、「口は、歯だけのものではない。」です。
こんな場面に、出会ったことはありませんか?
しっかり歯を治療しているのに、なぜか食べにくさを訴える人がいる
矯正も終わって歯並びはきれいなのに、口がぽかんと開いている
姿勢や呼吸を整えても、数日で元に戻ってしまう
歯科の現場に限らず、身体や表現に関わる仕事をしていると、こうした場面に出会うことは少なくないはずです。そしてその多くは、「口」の外で起きている困りごととして語られます。
「治っている」と「機能している」は違う
虫歯がない。歯並びもきれい。それでも、うまく噛めない、飲み込みにくい、口が開いたままになる――。「歯が揃っている」ことと、「口がきちんと働いている」ことは、別の話かもしれません。

歯科では、口の働きが少しずつ落ちていく状態を「口腔機能低下症」と呼んでいます。日本老年歯科医学会の基準では、次の7つの項目で口の働きを評価します。
口腔衛生状態(口の中の清潔さ)
口腔乾燥(口の乾き)
咬合力(噛む力)
舌口唇運動機能(舌と唇を素早く動かす力)
舌圧(舌の力)
咀嚼機能(噛み砕く力)
嚥下機能(飲み込む力)
ここで大切なのは、これが「歯を失っていない人」にも起こるということです。歯を1本ずつ診る視点と、口をひとつの「働くシステム」として診る視点。この2つは、少し違う場所にあります。
口は「チーム」で働いている
食べる・飲み込む・話す・呼吸する。これらはどれも、歯だけでは成り立ちません。舌が食べものを運び、頬と唇が歯の上に戻し、顎が動き、唾液がまとめる。口は、いくつもの部位が連携して動く、ひとつの「チーム」です。
だからこそ、どこか一か所の動きが落ちると、その影響は「食べにくい」「話しにくい」「口が閉じにくい」といった形で表に出てきます。そしてそれは、姿勢や呼吸、声、表情といった、口の外の困りごとと重なって見えることもあります。
それぞれの立場で、口を見る
歯科医師・歯科衛生士なら――治療計画だけでなく、患者さんの食べ方・舌の位置・唇の閉じ方・呼吸に、あと10秒だけ目を向けてみてください。
スポーツ指導者・トレーナーなら――フォームや姿勢の崩れの背景に、食いしばりや舌の位置が関係している可能性があります。
ボイストレーナーなら――声を出す「前」の口の状態――唇、歯の接触、舌の位置――にも、ヒントがあるかもしれません。
整体師・セラピスト・マッサージ師なら――ほぐしても戻ってしまう首・肩のこりが、顎まわりの緊張と関係していることもあります。
今日の10秒観察
次にクライアントや患者さんと向き合ったとき、話し始める前の「何もしていない口」を見てみてください。
唇は閉じている?
上下の歯は触れている?
舌はどこにある?
呼吸は鼻? 口?
正解に直す必要はありません。まずは「知る」ことから始めましょう。
口も、カラダの一部
歯科は長いあいだ、身体のほかの領域とは切り離された「口の中の専門」として扱われてきました。けれど、患者さんやクライアントが訴えるのは「肩が凝る」「呼吸が浅い」「声が出しにくい」といった、口の外の困りごとです。
代表理事・森昭は、note連載「カラダを整えるなら、口も。」で、スポーツ・声・姿勢・呼吸の専門家と一緒に口を見ていく「新しいオーラルコンディショニング」を提案しています。OCAジャーナルは、その問題意識を出発点に、専門と専門のあいだをつなぐ視点をお届けしていきます。
次回(10/15配信予定)は、「最近、口が開いている人が増えていませんか?」。「口が開いている」というサインを、歯科に限らずどの現場でも気づけるようにする視点をお届けします。
監修:森 昭(歯科医師/一般社団法人オーラルコンディショニング協会 代表理事)




