OCA口腔機能トレーナーとは
- 森昭

- 12月8日
- 読了時間: 6分
―食べる・話す・息をする力を整える新しい専門職―
「食べるのが遅くなった」
「むせやすくなった」
「発音が不明瞭と言われる」
「口呼吸が治らない」。
こうした“口まわりの困りごと”は、年齢に関わらず多くの人が抱えています。
ところが、むし歯や歯周病のように“目に見える問題”と違い、口腔の機能低下は気づかれず、対処が遅れがちです。
ここ数年で注目されているのが、口腔機能トレーナーという専門職の存在です。医療の隙間を埋めるようにして生まれ、子どもから高齢者まで幅広い世代のサポートを行う新しい分野として、急速に広がりつつあります。
■ 口腔機能トレーナーとは何をする人?
一言でいえば、「口の動きを整えるプロ」です。
口腔機能とは、
食べる(摂食)
飲み込む(嚥下)
話す(発音)
呼吸する
表情をつくる
など、生命活動に不可欠な働きの総称です。
口腔機能トレーナーは、歯科・耳鼻科・リハビリ・栄養・言語など多職種と連携しながら、本人の困りごとに応じたトレーニングを提案します。扱う問題は次のように多岐にわたります。
口呼吸・いびき
舌の位置異常(低位舌など)
咀嚼の偏り、飲み込みづらさ
発音の不明瞭さ
姿勢不良に伴う口腔トラブル
高齢期の口腔機能低下(オーラルフレイル)
つまり、口腔機能トレーナーは症状を「治す」よりも、“改善し、維持し、再発を予防する”ことに重きを置く存在といえます。
■ 歯科や言語聴覚士とどう違うのか?
「歯医者さんや言語聴覚士と何が違うの?」
よく聞かれる質問ですが、役割は重なる部分もありつつ、視点が異なります。
● 歯科:歯や歯ぐき、噛み合わせといった構造的な問題の診査診断・治療が中心。機能面も診るが、医療行為が主軸。
● 言語聴覚士(ST):嚥下障害や発語のリハビリの専門家。医療機関や介護施設での専門的評価と訓練が強み。
● 口腔機能トレーナー:医療行為ではなく、生活習慣・癖・筋機能の改善に特化。医療の“周辺領域”で、日常的なトレーニングやセルフケアの習慣化を支援する立場。
医療のサポートの枠外で、「正しい使い方」を身につけるコーチに近い存在、と捉えると理解しやすいでしょう。
■ どんな人が対象になるのか?
年齢に応じて困りごとは異なりますが、口腔機能トレーナーは幅広い世代を対象にします。
● 子ども

子どもの場合は“癖”が習慣化しやすく、放置すると歯列不正、姿勢の乱れ、集中力低下にもつながるとされます。
● 大人
肩こり・頭痛の背後にある噛みしめ癖
食べこぼし
会話の明瞭さ
睡眠の質を下げる口呼吸(詳細はこちらをご覧ください)
デスクワークやストレスの多い生活は、口腔機能を密かに弱らせます。
● 高齢者

口腔機能低下は、フレイル(虚弱)の初期サインと言われ、早期介入が生活の質を左右します。
フレイルの時に口腔機能トレーニングをすると健康の状態に戻ったり、フレイル進行を緩める効果があります。
■ トレーニング内容はどんなもの?
口腔機能トレーニングと聞くと難しそうですが、基本は「正しい動きを反復し、使わない筋肉を目覚めさせる」ことです。
代表的なものを紹介します。
舌の位置を整えるトレーニング
舌が常に下がっている「低位舌」状態は、口呼吸や歯列不正の原因になります。正しい舌位(スポットポジション)を身につけるためのトレーニングを行います。
咀嚼トレーニング
左右均等に噛めるか、姿勢は安定しているかを評価し、噛む力とバランスを整えます。
呼吸トレーニング
口呼吸改善のために鼻呼吸への切り替えをサポート。横隔膜を使った呼吸や、姿勢の調整を行うことも。
表情筋トレーニング
飲み込みや発音に関わる筋肉を鍛える目的で、顔や口周りの筋トレを行います。
食事動作の改善
食べるスピード、ひと口量、姿勢、飲み込み方など、生活行動の見直しをサポートします。
医療行為ではないため、痛みを伴うものではなく、「習慣を変えるためのアドバイスとコーチング」が中心です。
■OCA口腔機能トレーナーとは

一般社団法人オーラルコンディショニング協会(以下OCA)が、認定した口腔機能トレーナーです。
日本歯科医学会が公開している「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」「口腔機能低下症に関する基本的な考え方」を理解し、検査、指導法をOCAで学び、認定試験に合格した者です。主に、口腔機能トレーニングを日常の生活習慣に、口腔機能トレーニングを浸透させる指導者です。
■ なぜ今、口腔機能が注目されているのか?
近年、国の調査でも口腔機能低下を早期発見・早期介入する重要性が示されています。
背景には次のような社会的変化があります。
食生活の変化:柔らかい食品が増え、噛む機会が減った。
姿勢環境の悪化:スマホ・PCで前傾姿勢が日常化し、舌骨位置や呼吸が乱れやすい。
睡眠障害・口呼吸の増加:子どもの睡眠の質低下が問題化。
超高齢社会の進行:フレイル・誤嚥性肺炎予防が重要なテーマに。
口腔機能の低下は全身状態と密接に関係するため、医療だけでは追いつかない「生活の領域」へのサポートが求められています。そこに活躍の場が生まれたのが、口腔機能トレーナーです。
■ 口腔機能トレーナーに相談するメリット
① 自分の癖や原因を客観的に知れる:口腔の問題は自分では気づきにくいもの。専門的な視点から、原因を整理してもらえます。
② 継続しやすいトレーニング方法がわかる:日常生活で無理なくできる習慣化のコツを教えてもらえるため、改善が長続きしやすい。
③ 医療機関との橋渡しになる:必要に応じて歯科・耳鼻科・矯正・リハビリ職と連携し、最適なルートに導いてくれます。
■ まとめ:口腔機能は“生きる力”そのもの
口腔機能トレーナーは、治療ではなく「使い方を整える」専門家です。
食べる、話す、呼吸する――生きるために欠かせない動作を支えることで、子どもから高齢者まで、人生の質を大きく高めてくれます。
私たちが思っている以上に、口は身体の入口であり、健康の要。
もし日常の中で小さな違和感があるなら、一度“口の使い方”に注目してみても良いかもしれません。
口腔機能トレーナーは、その気づきと改善のサポーターとして、確かな価値をもった存在なのです。
※「OCA口腔機能トレーナー」は、一般社団法人オーラルコンディショニング協会の登録商標です。


