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OCA NEWS & JOURNAL

組織の生産性アップのために。。。

  • 執筆者の写真: 森昭
    森昭
  • 1月24日
  • 読了時間: 3分

―プレゼンティーイズムと口腔周囲筋―


――医療・歯科・産業保健の視点から考える見えにくい生産性低下


プレゼンティーイズムは、欠勤とは異なり「就業しているにもかかわらず、心身の不調により生産性が低下している状態」を指す概念である。

企業の健康経営や産業保健の分野では、メンタルヘルス、睡眠障害、運動不足などが主な要因として注目されてきたが、口腔領域、とりわけ口腔周囲筋の機能異常は十分に評価されているとは言い難い。


本稿では、医療・歯科・産業保健の立場から、プレゼンティーイズムと口腔周囲筋の関連について整理し、現場での介入可能性を考察する。


■ プレゼンティーイズムの臨床的・産業保健的意義


プレゼンティーイズムの特徴は、

  • 本人の自覚症状があっても軽視されやすい

  • 客観的評価が難しい

  • 慢性化しやすい

点にある。


頭痛、肩こり、倦怠感、集中力低下といった症状は、医療機関でも「明確な器質的異常が見つからない」ことが多く、結果として対症的対応に留まりがちである。

この“グレーゾーンの不調”をどのように捉え、介入するかは、産業保健職にとって重要な課題である。


■ 口腔周囲筋の機能と全身への影響

口腔周囲筋は、口輪筋、咀嚼筋群、舌筋、表情筋の一部などから構成され、咀嚼・嚥下・構音・呼吸・姿勢制御に関与する。


これらの筋群は局所的な運動器であると同時に、頭頸部の筋連鎖や神経系と密接に関係しており、過緊張や機能低下は全身症状として表出しやすい


■ 噛みしめ・歯ぎしりとプレゼンティーイズム

臨床および職域で頻繁に観察されるのが、無意識下の噛みしめ(TCH:Tooth Contacting Habit)である。

安静時には上下歯列は接触しないのが生理的状態であるが、業務中や心理的ストレス下では歯の接触が持続しやすい。


これにより、

  • 咬筋・側頭筋の慢性的過緊張

  • 顎関節への負荷増大

  • 頭頸部筋群への緊張波及

  • 緊張型頭痛、頸肩部痛

が生じ、結果として集中力低下・疲労感の持続といったプレゼンティーイズム症状を助長する。


■ 口腔周囲筋と自律神経機能

口腔周囲筋は三叉神経系と深く関与しており、持続的な筋緊張は中枢神経系を介して自律神経バランスに影響を及ぼす。


特に、

  • 咬筋・舌筋の過緊張

  • 呼吸補助筋としての機能低下

は交感神経優位状態を助長し、

  • 入眠困難

  • 中途覚醒

  • 熟眠感欠如

といった睡眠障害を引き起こしやすい。


睡眠の質低下は、翌日の認知機能や判断力に直結し、職務遂行能力の低下として顕在化する。


■舌位異常・口呼吸と作業効率

舌位の低下や口唇閉鎖不全は、口呼吸の誘因となる。

口呼吸は酸素摂取効率の低下のみならず、睡眠時の呼吸障害リスクを高め、日中の眠気や注意力低下を招く。


デスクワーク主体の就業者では、

  • 前方頭位姿勢

  • 猫背

  • 画面凝視

といった環境要因が重なり、口腔周囲筋機能の低下が進行しやすい点にも留意が必要である。


■ 産業保健・医療連携における介入の可能性

プレゼンティーイズム対策として、口腔周囲筋への介入は以下の点で有用性が高い。


  • 自覚しにくい不調への新たな評価軸となる

  • 非侵襲的でセルフケア導入が可能

  • 歯科・医科・産業保健の多職種連携が図りやすい


    具体的介入としては、

  • 噛みしめ行動への認知的介入

  • 舌位・口唇閉鎖の指導

  • 口腔周囲筋ストレッチ

  • 口腔筋機能療法(MFT)

などが挙げられる。


◇おわりに

プレゼンティーイズムは、個人の問題ではなく職域全体の健康課題である。


口腔周囲筋の機能異常は見逃されやすい一方で、頭痛、睡眠障害、集中力低下といった多様な症状の背景因子となり得る。


医療・歯科・産業保健が連携し、口腔から全身、そして就労パフォーマンスへと視点を広げることは、今後のプレゼンティーイズム対策において重要なアプローチになるだろう。



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